私たちの暮らしの中で、とっても身近な食材である「はちみつ」ほとんどの人が一度は食べたことがあるのではないでしょうか。はちみつをパンに塗ったりヨーグルトに入れたり。食パンや加工品にも、原材料としてよく使われる食材です。そのはちみつは、もちろんミツバチが集めてくることも、良く知られていることだと思います。

北本には、埼玉養蜂㈱さんという、はちみつ工場があります。工場のある場所は住宅街の一角です。一見すると周りには、ハチの姿や巣箱は見当たりません。

では「はちみつ工場」ってどんなことをやっているところなの?そんなきっかけから、埼玉養蜂㈱の清水英典さんに、はちみつにまつわる色々なお話をお聞きしました。

お話を伺うと見えてきた、日本養蜂の歴史や安全へのこだわり。あなたの知らないはちみつの世界を、一緒に覗きに行きましょう。

(取材:暮らしの編集室)

What is 埼玉養蜂?

-今日はよろしくお願いします。まず最初に埼玉養蜂さんのことについて教えてください-

清水「弊社は明治41年(1908年)に北本市のお隣、吉見町で始まりました。その頃は、はちみつを採る養蜂を行っており、事業が大きくなってきて昭和46年に、この北本工場を作りました。もう60年にわたり、ここで事業を営んでいます」

-創業が110年以上前とは、とても歴史がありますね

清水「そうですね。今の養蜂では巣箱にミツバチを飼育して、はちみつを採る近代養蜂が主流です。でも江戸時代は、巣箱を使ってハチを飼育する方法が、日本でメジャーではありませんでした。弊社の初代は、巣箱を用いた近代養蜂を確立したとして、天皇陛下から勲章を頂いています。恐らく、日本でも1番か2番目に、近代養蜂を行った会社だったと思いますよ」

日本近代養蜂と共に歩んだ埼玉養蜂の歴史

お話を聞かせて頂いた場所は、埼玉養蜂北本工場内にある資料室。部屋の中には、所狭しと日本養蜂の歴史を物語る様々な資料が展示してあります。

清水「私は4代目なんですが、2代目の社長も、天皇陛下から勲章を頂いています。2代目は近代養蜂を全国に広めることに尽力しました。初代のことが書かれた本もありますし、あの写真のハチ髭おじさんが初代社長なんですよ」

-インパクトありますね。ハチへの愛が伝わってきます…埼玉養蜂さんはこちらの工場に加え、鴻巣駅の駅前にも直営店がありますよね?-

清水「そうですね。実はあの鴻巣の場所では昔、巣箱を置いて養蜂を行っていたんです。その当時は巣箱を貨車に載せて、九州から北の方まではちみつを採りに行っていました。貨車に巣箱を乗せるのも大変な作業ですから、巣箱を貨車に乗せるため、当時はわざわざ線路をうちの会社ために、引き込んでもらったみたいですよ。今では考えられないですが。」

-巣箱を乗せて九州までというのは、面白いエピソードですね。そうやって近代養蜂を全国に広めていった軌跡を感じられます。-

清水「今では養蜂は行っていないのですが、昭和20年ごろは海外にもはちみつを輸出していました。これが当時のプレートなんです」

正に日本近代養蜂の歴史は、埼玉養蜂さんの歴史そのもの。

はちみつ工場ってどんなところ。

-次にこちらの工場について教えてください。-

清水「北本工場では、昭和60年くらいまで養蜂をやっていましたが、今では住宅街の中野工場になったので、やっていません。現在は、日本全国や世界各地から仕入れたはちみつを、瓶やチューブに詰める製品加工を行っています。そして、日本全国に出荷しているんです。」

-全国に出荷ってすごいですね。実際にどの様な種類のはちみつがあるんですが?-

清水「味の種類で行くと、百花蜜(ひゃっかみつ)・アカシア・蓮華(れんげ)・みかんなど約10種類くらいですかね。珍しいところだとユリノキなどもあります。特定の品種は数量限定で売り切れもありますし、ここ5.6年は国産のものがとても人気ですね」

-ユリノキなんてあるんですね。その味っていうのはどの様に決めるんですか?-

清水「ユリノキは養蜂家さんの提案で、ある程度量があったので商品化しました。養蜂家さんからハチミツを仕入れると、特徴的な味のはちみつもたくさんあります。例えば、フルーツの様な香りがするはちみつもあったんです。

全国の養蜂家との絆

-フルーツの香りがするハチミツなんで食べてみたいです。養蜂家さんは全国にいるんですか?-

清水「うちでは、全国の養蜂家さんから直接ハチミツを仕入れています。遠いところは送ってもらいますが、長野県辺りの近いところは直接トラックで行って仕入れてきますよ。トラックで行って一斗缶に入ったはちみつを積んできます。仕入れたらすぐに冷蔵庫で保管していますので、品質にも自信があります」

-直接買い付けに行かれるんですね。全国の養蜂家さんとは昔からお付き合いがあるんですか?-

清水「やっぱり昔からお付き合いしている養蜂家さんもいますが、新しい方もたくさんいます。養蜂家さん同士でご紹介して下さるんですよね。養蜂家さんは、農業などと兼業で営んでいる方が多くいます。養蜂家さんとのつながりは大切にしていきたいですし、養蜂文化や地域を守ることにもつながります。ですが、やっぱりハチミツなら何でもいいという事ではなくて、高い品質であるという事が条件になります。」

とことん品質にこだわる

-確かにはちみつを仕入れることで、仕事や地域を守ることにもつながりますよね。品質というのは、はつみつの味が美味しいかどうかということでしょうか?-

清水「そうですね。もちろん味もそうですし、安全基準も同じように重要です。味に関しては、例えばうちでは、一番搾りのはちみつは仕入れません」

-どういうことですか?-

清水「養蜂では、冬に入る前に私たち人間がはちみつを採ってしまうので、冬を越冬する蜂のエサが巣箱に残されていません。そのため、蜂にはエサとして砂糖水をあげるのですが、春に採る一番搾りのはちみつには、その砂糖水の成分が入っているんです。それは、純粋なはちみつではないため、うちでは仕入れることができません。養蜂家さんからは、仕入れる前に必ずサンプルをもらうのですが、そのサンプルを社内で検査をしています」

味を決める職人技と厳格な検査体制

-確かに当たり前ですが、はちみつはミツバチが集めてくるモノで、巣箱ごとに味が違うんですよね。-

清水「そのはちみつを一つ一つ味を見定めて、必要であれば他の産地のはちみつとブレンド(例えば、長野県産と埼玉県産)して、味を整えていきます。うちでは、品質保証部で、一つ一つ食味をする官能検査をしていて、おいしいはちみつか判断します。

-食味を判断される方は正に職人技ですね。次に安全についての取り組みも教えてください。-

清水「うちでは、一般社団法人全国はちみつ公正取引協議会が、定めている基準に明確に合致しなければ、はちみつを仕入れや販売することはありません。これは、国産でも海外産でも同様です」

-詳しく教えてください-

清水「工場では、様々な分析機器を使って、色々な検査をしています。例えば、ミカンのはちみつでは、ミカン(果実)に使用が認められている薬であっても、サンプルの段階でその薬が検査基準を上回ったら、仕入れません。そういった検査を徹底していることもあり、養蜂家さんが道の駅などで直接販売されている蜂蜜よりも、値段が若干高いのですが、安心安全の面では自信があります。海外産も、出来るだけ直接現地に出向き、どの様な環境で養蜂を行っているか、確認することも大事にしています」
(写真はハンガリーの養蜂場)

はちみつは一つ一つ違う

-とても厳しい検査基準を設けているんですね。今年はハンガリー産のはちみつが不作だと聞きました。-

清水「そうなんです。はちみつは天候や環境に影響される食品なので、特に海外では、その年によって出来不出来が大きく違います。うちでは、長年培った生産技術とネットワークで、高品質のはちみつを世界各地から仕入れています。今年はハンガリーではちみつが不作のため、ニュージーランド産のクローバーはちみつに力を入れています」

大人気の工場見学

-最後に清水さんのはちみつに対する想いを聞かせてください-

清水「私も子供のころからおじいさんに連れられて、色々な養蜂家さんのところに行っていました。はちみつって身近な存在なんですが、実は奥深い世界があるんですよね。海外も含めて養蜂家さんの個性やこだわりが、はちみつにダイレクトに反映してきます。この仕事のおもしろさは、そういった素晴らしい養蜂家さんや、はちみつの味や産地を、皆さんにご紹介できる事だと思います」

-埼玉養蜂さんでは工場見学もやっていますもんね-

清水「コロナになる前は、工場見学もやっていて、この資料室で味の食べ比べや、養蜂の歴史などを、皆さんにご紹介していました。日本だと、はちみつって何に使えばいいのか、分からない方も多いと思います。実は数年前に工場を建て替えたときに、併せて調理実演のできるキッチンスタジオも、新たに増設したんです。これからも、はちみつの魅力を、色々な方法で発信していきたいです」

日本近代養蜂の歴史と共に歩んできた『埼玉養蜂㈱』

日本養蜂界のパイオニアとして守り続けている、はちみつへの厳格な安全基準と味に対するこだわり。それだけでなく、はちみつの魅力を多くの方に伝え、チャレンジするその姿勢と試みが、日本養蜂の歴史の新たな1ページを開いていく。

はちみつはこちらの直営店でもお買い求めいただけます。ぜひ足をお運びください。

埼玉養蜂株式会社 鴻巣店(ハニーちゃんのお店)
〒365-0038 埼玉県鴻巣市本町4-1-15
電話:048-541-1104
https://www.royalhoney.jp