北本市の西端を流れる荒川。広々とした河川敷では、昔から稲作が盛んであり、秋には稲穂が一面に輝く景色が見られます。北本市の荒川河川敷で、お米作りを生業とする新井信洋さんは、新井農園の17代目。作っているお米は“コシヒカリ・彩のかがやき・彩のきずな”などの5品種。10月も下旬に差し掛かった秋晴れの昼下がり、稲刈りの合間にお邪魔しました。

健全に育った苗にはいいお米が実る

「田んぼの準備は大体3月下旬に始まります。最初に苗づくりですが、まず種籾を水に漬けて芽出しの準備をします。それから苗箱で苗を育て、4月20から6月20日の2か月間で田植えをしていきます。」
新井農園では8ヘクタールという広大な面積のお米を栽培しています。様々な工程があるお米作りの中で、とても重要なのが苗づくりだそうです。
「“苗半作”って言葉があるくらいですから、できるだけ頑丈な良い苗が欲しい。そのために種まきの方法など、色々な工夫をします。いい穂を付けたければ、いい苗といい茎をつくらないといけない。それが豊作につながります」

 

荒川の土と水、そして手間をかける

新井農園がお米作りを行う荒川の河川敷。大きな台風が来ると川が氾濫し、河川敷が大河の様相となります。昔から繰り替えされてきた川の氾濫は、水と共に肥沃な土を運んできました。その豊かな大地を美味しいお米作りへと活かすため、様々な手をかけていくと信洋さんは言います。
「もちろんここの土は抜群です。でも、いくらいい土だと言っても、そのメンテナンスはとても大事です。田畑が肥沃だとしても、手入れが常に行き届いていないといいものにはなりません。例えば冬場には、藁をすき込み腐らせて肥料にしていき、鶏糞や有機肥料を入れて土づくりをしていきます。稲の無い時期でも手間をかけています。作業を省力化していくことは大事なことですが、手は抜かずに、基本的なことを間引くことはできません」

美味しいお米作りには最適な“水管理”も欠かせませんが、新井農園の田んぼには荒川からの水を引いています。その水にもおいしさの秘密が隠されています。
「荒川の水はミネラル豊富で米作りに適しています。井戸の水だと温度も冷たすぎるんです。荒川の水も土づくりと同じように、おいしいお米作りには欠かせません」

ものづくりが好き

北本の地で代々農業を営む新井農園が、大々的な規模でお米作りを始めたのは信洋さんの代になってからだそうです。現在までに至るストーリーをお聞きしました。
「私は元々、家電メーカーに勤めるサラリーマンでした。会社には35年務めて、52歳の時に早期退職しました。今作っている田んぼは、全てお借りしている田んぼです。この高尾の河川敷は20ヘクタール以上を、7軒の農家で作付けしています。空いている畑を藪や草にしちゃうわけいかないからね」
高齢の農家さんが増える中、皆で手分けし助け合いながら、田んぼを維持管理されているそうです。

 

一年に一度の恵み

年間を通してお米作りに向き合う信洋さん。取材の最後に“どんなふうにお米を食べてほしいですか”と聞くと、こんな答えが返ってきました。
「私自身は、食べ残しとかでお米が捨ててあったりするとがっかりするな。捨てるくらいだったら、おむすびにして焼きおにぎりにしたり。無駄にする前にそういう利用を考えるっていうか。お米に限らず食べ物は大事にしなくちゃなんだけど、特にお米は捨てられているのを見るとがっかりするね。一粒たりとも無駄にしたくないという想いはありますよね」(暮らしの編集室)