北本市の地場物産館「桜国屋」から程近い場所にある清水農園。大空の下、野菜畑が広がる敷地内には、ガラスハウス(温室)が立ち並んでいます。清水農園は、3代続く農家。秋から冬にかけては、屋外でニンジンやダイコン、ブロッコリーなどを栽培していますが、春の気配を感じるころになると、ガラスハウス内のトマトがメインになっていきます。3代目の清水宏典さんに、農園で育てているトマトの特徴や仕事への思いなどを聞きました。

イチゴみたいな形の「トマトベリー」

清水さんに案内していただき、ガラスハウスの中へ。入ってすぐ目に留まったのは、先が尖っていてイチゴのような形をしたミニトマトです。「これは『トマトベリー』という品種です。ジューシーですが、どちらかというとサクサクした食感で甘味もあります。スナック感覚で食べられるので、小さな子どもにも好まれていますね。以前はいろいろな種類のミニトマトを作っていましたが、形の珍しさもあってか、一番よく売れたので、今はこの品種が中心です」と清水さんが説明してくれました。

トマトは「桃太郎ネクスト」という品種を栽培。病気に強いうえ、一つの枝からたくさんの実がつくという特長から選んだそうです。

清水農園では、水を与えないことでトマトやミニトマトの甘味を強めています。「苗を植え、根が張るまでの1カ月はしっかり水を与えますが、その後は全くあげません。水分が多いと大きくはなりますが、味が水っぽくなってしまうんです。だから、苗に与えられる水は、苗が自力で地下から吸い上げる分だけになりますね。この辺りの土地は中心部より低く、雨水が流れて来やすいので、ポンプで水を汲み上げるなどして苗が水を吸い過ぎないように気を付けています」と清水さん。

ガラスハウスの中では、清水農園の看板野菜の一つ「アイスプラント」も育てています。表面にある水滴のように見える粒は、塩分の結晶。「塩味が付いているので、粒のプチプチした食感を楽しみながら生で食べられます。葉は軟らかく、茎の部分はシャキシャキです。ほかの農家さんで作っている話は聞いたことないですね」とのこと。ファンも多いそうです。

農業の難しさと楽しさを経験して11年

清水さんは、大学卒業後、そのまま家業に入りました。「実は、すぐ継ぐことに迷いがあったので卒業前に就活をして、いくつか内定ももらっていました。でも、いつか継ぐのなら早いほうがいいと思い直したんです。子どものころから収穫の手伝いをしていてトマトも好きなので、やっぱり農園には思い入れがありました」と家業を選んだ理由を話します。

その後、父親の仕事ぶりから学んだり、自ら試行錯誤したりして少しずつ経験を重ねてきました。「去年と同じように作業をしたのに、野菜の出来が違ってしまうこともありますし、突然病気が出てしまうこともあります。なんでなのかなと思いますよ」と農業の難しさを話します。

一方で、喜びを感じられる場面も多々。「子育てをするように、小さな苗を大きくなるまで丹精込めて育てて、収穫できたときが一番うれしいです。『桜国屋』やスーパーの直売コーナーにはいろいろな生産者の野菜が並んでいますが、その中からお客さんがうちの野菜を手に取ってくれているのを見かけると、作って良かったと思いますね」

現在、清水さんは、ガラスハウス栽培を行う農家が集まる「北本ハウス園芸組合」の組合長。加工用トマトの取りまとめや共進会の開催などで、リーダーシップを発揮しています。「組合長は順番で務めるので、特に自分が選ばれたわけではないですよ。ただ組合員の中で一番若いから、みんなに『もっとハウスを立てて収穫量を増やせばいいのに』とは言われますね。今は人手が足りないこともあって難しいですが、いつか量を増やし、販路も広げていければと思っています」と笑顔を見せます。

悩んだ末に選んだ家業で、今は夢を持つ33歳。周囲から寄せられる期待も大きいようです。(2022年2月下旬取材)

//清水農園のトマトを食べる//

清水農園のこだわり木熟トマトは「きたもと四季の恵みマルシェ 農産物直売所 桜国屋」にて、お買い求め頂けます。