北本にあるフルーツサンドの名店

特製のしっとり食パンの中には、キラキラと光るたっぷりのフルーツと自家製のオリジナルクリーム。頬張ると、フルーツの自然な甘さとジューシーな旨味が、口の中にあふれます。クリームに負けないフルーツ本来の味と、強烈で繊細な季節の香り。選び抜かれたフルーツのおいしさに驚かされます。

北本市にあるフルーツサンドの名店「PanHammm」(パンはむ)。熱狂的なファンや常連さんが多く訪れ、遠方からもたくさんのお客さんが足しげく通います。店内には、常時10種類以上のフルーツサンドが並び、サンドだけでなく旬のフルーツを使ったデザートも大変人気です。

お店に伺うと、ショーケース横の黒板にはこんな紹介がお客さんを出迎えます。

オーナー兼店長の林晋也さんは、全国から選りすぐりのフルーツを農家さんから直接仕入れ、ギフトなどで販売する事業を営んでいます。それも店舗は持たずに、口コミだけで事業を拡大してきました。パンはむは、林さんが厳選した季節のフルーツを、より手軽で身近に食べて欲しいと2021年2月にオープンしました。「農家さんが丹精込めて作った本当に美味しいフルーツを、たくさんの方に届けたい」フルーツへのこだわりや、お店オープンまでのストーリーをお聞きしました。

とにかく農家さんに会いに行く

パンはむで提供しているフルーツの多くは、生産者からの直接仕入れ。「農家さん一軒一軒まわって、とりあえず食べさせてもらうんです。そのまま食べておいしい果物と、フルーツサンドに合う果物は全然違います。その違いを感じながら、会って食べてを繰り返します。それをずっとやっていくと、人柄でその人の作る果物の“うまさ”がわかってきます。この人は作るのに懸けているな、とか。食べさせてもらって話をしながら、直接お願いをしていきます」

とにかく生産者をまわり、食べ続けて“うまい”フルーツを探していくという林さん。お宅に伺うと、素敵な出会いも待っていると言います。「農家さんのお宅に行って仲良くなると『こんなものあったの』が出てくることもあります。中々市場には流通しないフルーツですね。味はバツグンだけど、量が採れなくて見た目が悪くて送れないとか。うちなら全然OKです。サンドは剥いちゃいますから。農家さんも喜んでくれます。忘れられない出会いもたくさんあります。この小ぶりのミカンもそうなんです」そう言って小さなミカンを見せてくれました。「これは農家さんが数年かけて生産量を増やしてきた、貴重なミカン。先日も、この味を気に入ってくれたお客さんが、ある分全部下さいと買っていってくれて。想いが伝わると嬉しいですよね」

フルーツが主役のフルーツサンド 素材にこだわり、トコトンシンプルに

林さんの作る“フルーツサンド”は、フルーツを味わうためのサンドイッチです。合わせるクリームは、オーガニックシュガーと風味の違う2種類の生クリームだけ。サンドするパンも、専門店と契約し、長期熟成でしっとりとした食感のパンを厳選。カップデザートに合わせるフルーツソースなども、全てイチから手作りです。「パンも生食パンとかだと、香りや甘みが強すぎてフルーツが負けちゃいます。フルーツを選ぶうえで、自分がとても大事にしているのは『苦み・酸味・香り』です。山菜とかまた食べたくなるじゃないですか。フルーツのおいしさって、甘さだけじゃない。ミカンでもお芋でも、香りが最後に“ぶわっとくる”フルーツ、最高に旨いですよ」パンはむが目指すのは、毎日でも食べたくなるフルーツサンド。「実は何もとがっていない、何も混ぜていない素朴な味です。でもそうじゃないと、日頃食べたくならないから」と、想いを教えてくれました。

一番旨いタイミングは農家さんが決める

果物が野菜と違う特徴の一つに“熟成”があります。一般的に鮮度が求められる野菜に比べて、果物は“熟成”することでうまみが増し、味が複雑となり、食感が変化するものが多くあります。パンはむでは、その果物が一番おいしいタイミングは、農家さんにすべてお任せ。「特にフルーツギフトを口コミでやっている理由はそれなんです。時期はお客さんも選べないし自分も選べない。全て農家さんのタイミングです。一番うまいタイミングは農家さんが知っています。だから少量しか出せません」また、年間100品種以上のフルーツを扱うパンはむでは、林さんが実験的に何カ月も寝かせる果物もあるそうです。「味のないフルーツを寝かせても、味気の無い味にしかなりません。旨味があって酸味のあるミカンを寝かせると、酸味と甘みのバランスの取れた、とてつもなくうまいミカンになります」サツマイモや柿など、店舗には様々なフルーツが熟成され、今か今かとその出番を待っています。

生きているうちに食べる フルーツハンターとして歩むまで

林さんがフルーツハンターとして事業を営み始めたのは、今から約5年前のこと。その経歴にも、現在の事業に繋がる物語がありました。

林晋也さんは、大学で外国語と社会学を学び、卒業・就職の後、一路イタリアで料理修行へと歩まれます。一年間のイタリア修行を経て、帰国後は日本料理の割烹料理店で修行、その後、果物の行商を経て、現在のフルーツハンターとして活動を始めます。現在39歳となる林さん。「なんでイタリアに行かれたんですか」と尋ねると、こんな答えが返ってきました。「なんか好きなことやろうと思って(笑)本当は、食への興味は以前から持っていました。食に関わる道を選んだのは、その頃近しい人を相次いで亡くした経験が大きかったです。その人は、食べるのが大好きだったけれど、最後は病気で食べることが出来なく、亡くなってしまった。だから、自分は生きているうちに好きなものを食べたい。食べられるときに食べないとね。美味しく食べて健康になって。自分がそのお手伝いが出来たら、幸せだと思ったんです」果物行商の経験を経て、フルーツの奥深さに魅了され、今のフルーツハンターの事業を始めました。

同じものは二つとないギフトやフルーツプレート

そのユニークな経歴は、今のフルーツハンターの活動にも繋がっています。「毎週の様にご注文を頂くフルーツプレートは、同じものは一つもありません。お子さんのお祝いだったら、食べる人数や性別、活発な子かおとなしい子か、様々な好みを聞いて作っていきます。丁度今、ベリーを煮詰めているカップデザートも、実は一人の男性の方からオーダーを頂き仕込んでいます。フルーツサンドもそうですが、パンはむでは、素材の味を最大限に引き出しつつ、お客さんの好みに合わせていきます。好みに合わせられる引き出しを、持っているかがとても大事。引き算と足し算で、そこは和食も一緒だと思っています」

フルーツを通してお客さんに向き合う

お客さんの好みに徹底的に向き合うこだわりは、フルーツサンドにも表れています。パンはむでは、2022年の初夏、フルーツサンドのサイズをひと回り小さくしました。その理由を聞いてみると「以前来てくれた学生さんが、値段が高くてバナナオレオしか買えなくて。その子にフルーツサンド食べてほしかったんです。小さくしたらより手軽な値段で買えるようになるし、その子がフルーツを好きになれば、嬉しいじゃないですか。自分もお客さんなら、色々な種類を食べたいですしね」こう教えてくれました。また、お客さんからはこんな声も多く寄せられていると言います。「フルーツが苦手な旦那さんが食べたら気に入ってくれたとか。嬉しいですよね。好きな人はもちろん、苦手な人が食べてフルーツ好きになってくれたら、こんな幸せなことないですよね」

全ての方が最初のお客さん

お店を共に運営する奥様とお二人で「お店やサンドに対して、こんな話をよくするんですよ」と、最後に教えてくれました。「常連さんはもちろんいますが、食べて下さる全ての方が、最初のお客さんだと思って作っています。最初がまずかったら、フルーツサンドだけでなく、フルーツを嫌いになっちゃうかもしれない。フルーツサンドでフルーツたくさん入ってなかったら、悲しいじゃないですか。ケーキじゃなくてフルーツのためのフルーツサンドだから。最後はフルーツを好きになってほしいんです。」

情熱は伝わる

お客様との心温まるエピソードをたくさん聞かせて下さった林さん。最後にとっておきのエピソードを教えてくれました。「先日来てくれた年配の方が『あなたのフルーツサンドは、フルーツを食べさせる為だから、今度はフルーツを食べてみたい』って言ってくれて。ああ伝わっているんだなって。これからも、本当にうまいフルーツに出会える、地域に愛されるお店にしていけたらと思っています。農家さんの想いの詰まったとびきりのフルーツを、子供達にもぜひ食べて欲しいです」

年明けから春にかけて、大人気のイチゴが旬を迎えます。フルーツハンターが情熱を傾ける、フルーツサンドの名店が北本にあります。ぜひご賞味あれ。(2022年12月取材)

店舗情報

PanHammm(パンはむ)

北本市北本1-31-1/定休日:日・月・火曜日/11:00~ 売り切れ次第終了

※店舗詳細はInstagramから