埼玉県北本市中丸地区。あたり一面の田んぼに水がはられ、田植えの準備が始まる5月頃、加藤トマトファームの完熟トマトも旬を迎えます。北本市内スーパーの地場産コーナーでもファンの多い、加藤トマトファームの大玉トマト。その栽培方法やトマト栽培にかける想いを取材しました。

案内して下さるのは加藤トマトファームの加藤初江さん。50年以上にわたり、ご主人と二人三脚でトマト栽培に向き合ってきました。現在では、息子さんのお嫁さんもスタッフとして加わり、家族三人でトマト栽培に取組んでいます。

自家製の井戸水で育てる

加藤トマトファームでは、水耕(すいこう)栽培と土耕(どこう)栽培の二つの方法でトマトが育てられています。まず、最初に見せて頂いたのが水耕栽培のトマトハウス。水耕栽培は、土は使わずに水の中に直接トマトの根を生やして木を育てる栽培方法です。水の中には成長に必要な栄養分が入っており、農園では井戸水を使用しています。「この井戸も昔若い頃にね。主人が自分で掘ったんですよ。川の源流から水脈があってこの辺は昔から水がいいんです」トマトの根元に設置されたトレイの中には、その井戸水がなみなみと注がれています。

大量の水が必要となる水耕栽培では、水を循環させない栽培方法もメジャーな方法です。一方、加藤ファームでは自家製の豊富な井戸水を絶えず循環させることで、トマトの根に必要な酸素や栄養分を常に与えています。新鮮な水は、それだけでトマトの健康を守り、生育を促してくれます。9月6日にトマトの種を蒔き、苗をハウスに移すのが9月のお彼岸頃。4月から7月10日頃までがトマトの収穫シーズンとなります。「こっちは少し小さめで中玉くらい。甘みが強くって子供さんにも人気なんですよ」加藤ファームで育てているトマトの品種は桃太郎はるか。農園全体で約2400本のトマトを栽培しています。

有機肥料にこだわる昔からの土づくり

次に見せて頂いたのが土耕栽培のトマトハウスです。ハウスの中には、真っ赤に赤らんだ大玉トマトが、木にずっしりと実っています。土耕栽培は土の養分でトマトを育てる栽培方法ですが、その土づくりにも加藤ファームのこだわりが光ります。「うちでは化学肥料は全く使わずに、昔っから有機肥料だけ。昔は川越の方から落ち葉とかもらってきてね。今は甘酒みたいのとか、土にいい色んな菌を使ってね」もぎたての真っ赤なトマトをまるかじりで頂くと、濃厚なトマトの香りとジューシーな旨味が口いっぱいに広がります。

美味しいトマトは木でじっくりと

土づくりに加えて、初江さんがこだわりトマトを育てる二つ目のポイントは、ハウスの温度管理です。「あんまり温度上げて“ぽっぽ・ぽっぽ”いっちゃうと、味がうすくてね。でも、最低にすると病気にかかりやすいから最低は6度くらい。気温が高いとすぐ赤くなっちゃうから、低い温度でもっていくようにすれば味がのるんです」トマトの旬は、真夏のイメージがありますが、実は高温には弱い作物。ハウス内の温度が高いと、トマトに旨味がのる前に実が赤らんでしまい、どうしても水っぽいトマトになってしまいます。

そこで重要なのが、ハウス内の温度管理。加藤ファームでは、収穫期の前から毎日欠かさずにハウスに入り、窓やカーテンなどでハウス内の温度管理を行っています。トマトが長い時間をかけて木でじっくりと育つ環境を作っていくことで、旨味がのった完熟トマトが出来上がるのです。「できるだけ消毒はしたくないから」と、自然栽培にこだわる加藤ファームでは、トマトの受粉にマルハナバチが活躍しています。「この実はね、みんな蜂がつけたんですよ。大したもんですよ」と初江さん。こだわりの土で育てられた大玉トマトは、酸味と甘みのバランスが良く、トマトらしい味がすると常連さんにも評判です。

50年以上にわたるトマト栽培

初江さんが北本市中丸の加藤家にお嫁に来たのは、今から約50年前。「私は菖蒲町の生まれでね。実家は米農家をやっていました。嫁いできた時には、もうトマトは作っていて、ああ忙しいとこに来ちゃったなあって(笑)。そのころはまだおじいちゃんおばあちゃんもいたから一緒に教わりながらね」と初江さん。北本市でトマトのハウス栽培が始まったのが約50年前。加藤ファームは北本でトマト栽培をスタートした最初のメンバーとして、50年以上にわたりトマト栽培に取組んできました。

「トマトを作る前は露地野菜、その前は養蚕をやっていたようです。いつからここにいるかは定かじゃなんだけど、鎌倉時代の石がお墓にあるからそれくらいかなあって。正直わかんないんです」加藤家の歴史をお聞きすると、初江さんからこんな答えが返ってきました。加藤家の周りには昔から地域で農を営んできた、のどかで心落ち着く風景が広がっています。

トマトを作る喜び

トマト栽培は収穫の時期だけでなく、土やハウス・施設の手入れ、苗づくりや木の仕立て、収穫や出荷作業など、年間を通して様々な作業があります。「最近年だから一週間の内、一日は休まないとね。農家は何せ忙しいですよ」と初江さん。一年を通してほぼ毎日トマトに向かう初江さんにとって、仕事の喜びはお客さんからの評判だといいます。「気に入ってくれたお客さんがね、ここに直接買いに来てくれるんです。お孫ちゃんに送るからって。あと、スーパーに並べているときに、美味しいって声かけてもらったり。お客さんに褒められる時が一番うれしい。ご褒美だねって、家族で話しているんです」と初江さん。常連さんの中には、北海道や大阪、沖縄などの遠方に贈られる方も。「お客さんとおしゃべりしながらね」初江さんにとって、常連さんやお客さんとのつながりが美味しいトマトを生む原動力となっているようです。

「こんなに取材してもらっちゃ恥ずかしいんだけどね」そう言って照れる初江さん。その隣には、真っ赤に色づきつやつや光る完熟のトマトが並んでいます。一つひとつ、丁寧に箱へと並べてられていくトマトたち。加藤ファームで代々受け継がれてきた、味と技術が詰まった完熟トマトが、今年も旬を迎えています。

おすすめの食べ方は、冷蔵庫に入れず新鮮なうちにまるかじりかサラダなどで。加藤トマトファームの完熟トマトは、北本市内のスーパー「いなげや」「とりせん」、農産物直売所「地場物産館 桜国屋」にて販売しております。北本市ふるさと納税返礼品にも季節限定で出品していますので、ぜひご覧ください。