北本郵便局の近く、住宅とお店が並ぶ通りの一角にある「伊藤ふぁーむ」の直売所。10坪ほどの店内には、直売所から数分のところにある畑で採れた、約120種類ほどの新鮮な野菜が並びます。中でも多くのリピーターが毎年心待ちにしているのがサツマイモ『熟成紅はるか』です。じっくり火を入れた「焼き芋」は、直売所の看板商品となっています。
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いとうふぁーむの熟成紅はるか~昔ながらのやり方で守る味わい深いさつまいもの秘密とは~
伊藤ファームでは梅雨前の5月から6月にかけて、サツマイモ苗を畑に植えていきます。農園では苗を畑に植えることを「苗差し」と呼んでおり、植える本数は12000本以上にもなるそうです。6月上旬のある日、伊藤ファームで「苗差しの体験会」が開催されました。
さつまいも作りは、2月頃の苗床づくりから始まります。踏み固めた落葉の上に、前年畑で採れた出来のいいさつまいもを並べ、上からシートをかぶせます。落葉は微生物の働きにより発酵し、その過程で熱を発生します。温かな落ち葉のベッドに包まれて、さつまいもは芽を生やしていきます。
芽が伸びてくると、畑に植える準備が始まります。生えてきた芽を切り揃え水に数日漬けておきます。そうすると、芽からは新たな根が生えてきます。その状態を苗として畑に植えていくのですが、100本ほどの束にまとめタライに入れて畑に運びます。
畑には事前に黒いマルチシートが敷いてあり、そこに苗を植えていきますが、ここにも美味しいサツマイモを育てる工夫があります。黒いマルチシートは土に還る生分解性のシートが使われており、草の抑制を押さえる役割があります。その為、除草剤などの薬はほとんど使用せずに、本当に安心安全なサツマイモが作られていきます。
伊藤ファームでの苗差しは家族総出で行われます。作業はそれぞれの役割が決まっている分業制。その作業を少し紹介すると、一人がストックに似たポールを持ち、マルチシートに斜め45度の角度で穴をあけていきます。もう一人がそこに苗を置いていき、別の人が苗を差していきます。差したらその場所の土を上からグイッと押してへこませます。「へこませると雨が降ったときに水が溜まって苗がよく根付くんです」サツマイモ苗は暑さに弱く、暑い日に畑に差してしまうと根付かずに枯れてしまいことも多くあるそうです。「お天気を見計らって、出来るだけ雨の降る直前の涼しい日にやっています」と伊藤さん。
畑に入らせてもらうと、足が簡単に埋まってしまうほど土が“ふかふか”しており、その感覚に驚かされます。伊藤ファームでは、雑木林だった林を興して畑にしている箇所が多くあるそうです。その為、雑木林の落ち葉や、自然の堆肥がたっぷり入った土でさつまいもを育てており、化学肥料なども入れずに、本当に自然のままで昔ながらのサツマイモが栽培されています。「それでも何年か育てると、土の力が落ちてきて、病気の発生などに繋がってきます。その為、数年に一度ですが、表面の土と下の方の土を入れ替える“天地返し”という作業を冬の間に行います。ショベルカーで地下数メートルから土を掘り返していくのですが、そうすることで土の状態を常にいい状態に保つことができますし、薬などの使用も極力少なくすることができます」こだわりの土を抱かれて、サツマイモは大きく立派に育っていきます。
伊藤ファームでの苗差しは6月中旬までに終わりとなり、その年の秋にはサツマイモ「紅はるか」の収穫となります。その後、農園では天然の貯蔵庫である「ムロ」で数カ月かけて熟成が行われます。
サツマイモの作業は、ほぼ年間を通して行われます。年明けの寒い時期から始まる苗床の準備、春から初夏の苗づくり、夏の間の栽培管理を経て、秋口からは熟成の期間となります。「本当に安心安全で、納得できる美味しいお芋を届けたい」私たちの食卓に並ぶまで、伊藤ファームの「熟成紅はるか」には、こだわりと手間暇が随所にちりばめられています。