内田牧場 内田保之

北本市内でただ1軒の肉用牛農家

有限会社内田牧場は、北本市内で唯一、肉用牛を飼育している会社です。ホルスタインと黒毛和牛のミックスで「交雑種(こうざつしゅ)」と呼ばれる品種を子牛から 30 カ月育てて出荷しています。社長を務めているのは、脱サラして家業を継いだ 3代目・内田保之さん。内田牧場のこれまでの歩みや牛舎での仕事について、保之さんと父の治一(はるかず)さんにお話を聞きました。

終戦後 、治一さんの父親が開場。酪農家として、1、2頭の乳牛を飼うところからスタートさせました。そのころは市内のあちこちで牛を飼っていたな」と教えてくれたのは、御年 80 歳の治一さん。この道60 年を超える大ベテランです。その後、乳牛を約 30 頭まで増やし、1966 年(昭和41 年)には法人化。しかし、次第に牧草作りや朝晩の搾乳作業が負担になってきたため、肉用牛への方向転換を決め、少しずつ飼育する牛の種類を変えていったといいます。

役割分担をして親子で働く

息子の保之さんは大学卒業後、東京の企業に就職。牧場の仕事に移ったのは、今から 15 年前です。「39歳のときです。特に何かきっかけがあったわけではないんですけどね。学生時代も含めて、それまで家の仕事を手伝うことはほぼなかったんですが、力作業が中心なので、一度覚えてしまえば後は楽でした」と保之さんは笑います。

内田牧場では、現在、子牛を含め約 140 頭を 3 棟の牛舎で飼育しています。保之さんは、朝夕 2 回の餌作りや餌やり、牛舎の掃除などを担当。餌は、おから・ビール粕・牧草を独自の配合で混ぜて作っています。また、牛は暑さに弱いため、夏になると牛舎内に扇風機を設置したり、牛舎の屋根に水をまいたりして、少しでも涼しく過ごせるよう、対策をしているそうです。

さらに「牛が足を傷めていると、立ち方や動きがいつもと違ってくるので、早く気付いて症状を確認す
るようにしています」と日々、牛の様子に目を配っています。一方、治一さんの担当は、子牛。成牛よりも体が弱く、風邪を引くと肺炎になって死んでしまうこともあるため、日ごろの観察が重要とのこと。

「牛が風邪を引くと、人間と同じで呼吸が早くなったりするから、毎日見ていると分かるもんだよ。今年は牛にワクチンを打ったから大丈夫そうだな」と治一さん。力作業を保之さんにバトンタッチして、今は自身の長年の経験をより生かせる業務を担っているようです。

格付けで品質の高さを証明

こうして 2 年半育てた牛は、食肉市場へ出荷。そこで、「歩留等級(ぶどまりとうきゅう)」(A ~ C)と、「肉質等級」(5 ~ 1)を組み合わせた格付けが行われます。歩留等級は 1 頭から取れる肉の量で、肉質等級はサシ(脂肪)の入り方などで決まります。最高ランクは「A5」です。内田牧場の牛肉は、交雑種の部門では常に高いランクをキープ。また、定期的に開かれている共進会(品評会)でも、最優秀賞など上位入賞を重ねています。

治一さんによると「真っ白なサシが入っているのが、いい肉。味を決めるのはサシだからね。脂肪は体に良くないと言われているけど、サシのない赤身肉は高く売れないよ。時代は変わっても、そこは変わっていないね」とのこと。格付けされた牛肉は、セリにかけられ、値段が決まっていきます。基本的にランクの高い肉は高く売れるのですが、その時期に問屋が必要としている量やランクに合っていない場合、なかなか良い値段が付かないのだとか。だからこそ「育てた牛が人から高い評価をしてもらって高い値段で売れると、何よりの仕事の励みになります」と保之さん。

内田牧場では自社の牛肉がどこでどのように売られているのか、牛の個体識別番号を辿らない限り、分からないそうです。消費者ができることは、ただ一つ。生産者が大切に育てた牛の肉をとにかく残さず、すべておいしくいただくことです。