市民ライター 石川美和
『みどりの風と、みかんいろ』 vol.1
−どうしてそんなに北本に惹かれるの?
北本に住む友人たちからも不思議がられますが、市外在住の私にとって、北本は五感を刺激してくれる、とっておきの楽しい場所。
その魅力にハマったのは、豊かな自然と子育てを繋げてくれた、ある幼稚園との出会いがきっかけでした。
北本へ移住計画?!
それは、2021年の3月でした。
窓を開けると春の匂いがほわんと香ってくる頃です。
4月から始まる、娘の「ピカピカの1年生」へのカウントダウンがはじまり、幼稚園へ向かう車の中で、私の心はひどく沈んでいました。
「あ〜あ、もう北本に毎日来ないのかあ。」後部座席のチャイルドシートに足を組みながら座る娘がつぶやきました。
「うん….そうだね。」
思わず溢れそうになる涙をこらえるために、私の声は裏返ってしまって。
瞬時に、子供たちに大人気の「メイクユアハッピー」を甲高い声で口ずさみました。
あ〜あ、春がきちゃったな。
北本へ行く理由がなくなっちゃうな。
3年間の幼稚園通いで、北本で過ごす時間が多くなっていた私は、あまりの心地よさに、まるで自分がそこの住人かのような感覚でいました。
しかしながら、悲しいかな、北本に住めない….。
なぜなら、夫の実家が代々続くお寺なのです。
気軽に引っ越すわけにはいかない理由がありました。
地元の小学校へ行くよと言った娘の声を聞いてから、卒園後にもなんとか北本と関われる方法がないか、毎日のように考えていたように思います。
「セカンドハウス、借りちゃう?」
自宅から車で30分ほどの距離ですが、入学前に夫と夜な夜な相談したものです。
いい街って何だろう?
私が暮らしているのは北本ではありません。
近隣の、田畑とショッピングモールとゆるキャラが混在する、埼玉郊外に住んでいます。
一見すると、北本市と同じような環境。
大きな違いなどないかと思われますが、いやはやどうして、深くかかわってみるとアレもコレも全然違うじゃないですか。
こどもと暮らす毎日は、とにかく慌ただしく、あっという間に日が暮れるといった繰り返し。
そんな中で、こどもと一緒に楽しめる暮らしの土壌があるかどうか?
こどもが五感を働かせて思いっきり遊べる環境が整っているかどうか?
それは私にとって、暮らしたい「いい街」の大きな条件でした。
こどもと一緒にワクワクを求めて
娘が2歳を過ぎ、さあ、幼稚園選びという時期になったときでした。
選考の第一条件は、自然豊かで思いっきり遊べる環境があること。
地元にあるいくつかの幼稚園を見学しましたが、自然を排除した園庭だったり、
教育熱心なあまり、息苦しさを感じる雰囲気だったり。
何を優先するかは、ご家庭によって様々で、良いも悪いもないと思うのですが、どこもピンとくる園がなく途方に暮れていました。
通園範囲を広げて調べるうちに、北本にあるひとつの幼稚園にたどりつきました。
「北本みなみ幼稚園」
そこが運命の出会いだったのです。
北本には自然観察公園という、ホタルや野生の動植物が生息する里地里山の景観を残した、魅力的な環境があります。その中に幼稚園の自然教育園があり、園のこども達はそこで虫を捕ったり、花を摘んだり、ゆすらうめの実を採って食べたり、山に登ったりと、五感をフル活動させて遊べるのです。
甘酸っぱい「ゆすらうめ」と、カラフルな夏祭りのかき氷は記憶の中でも色鮮やか
園庭にはみかん山やどんぐり山などがあって、育ったみかんをもいで食べたり、ポケットいっぱいにどんぐりを集めたり、葉っぱを集めて秘密基地を作ったり。
まるで私が体験したかのごとく書いていますが、そんな環境を身近に感じるだけで子供のようにワクワクしてきます。
娘は毎日のように花から花へと舞う蝶を夢中になって追いかけて遊んでいました。
かわいいヤギのリボンちゃんに餌をあげたり、ポニーさんと触れ合えるのも貴重な経験。
なんといっても、園庭にある大きな欅の木が、夏のギラギラした日差しを遮ってくれて、吹きぬける風がなんとも心地がよい!
一日の生活時間は、多くの幼稚園と変わりないかもしれませんが、これほどまでの豊かな自然の中でこども達を見てくださっているのは、こどもを主体に、最優先に考えて園づくりがされているということ。
庭仕事をするのでわかりますが、子どもたちが思いっきり遊べる状態の庭を維持することは本当に手間のかかることなのです。
台風の後なんて、それはもう大変!園庭には大きな木々から落ちた枝が散らかって、先生方はこども達が登園してくる前に大掃除です。
「大木っていうのはね、強い風で根本から倒れないように、自ら枝を落とすんですよ。」
園長先生のお話も毎回楽しいものでした。
秋になると森に行って栗拾い。
夕飯は栗ご飯に。
自然教育園で摘んできた蜜柑色の黄花コスモスは、玄関に飾ってたのしみました。
そしてミラクルは続く
入園してからしばらくのこと、インスタでフォローしていた大好きなカメラマンさんが、こども達の園での様子を撮影していることを知り、もう、これは、本当に鼻血が出るかと思いました。
北本で「うえのへや」写真館を営むナガシマアサコさんです。
アサコさんの撮る写真は、その瞬間のこどもの体温や笑い声、吹いている風や暖かさまでもが写っていて。
沢山たくさん、撮ってもらった大切な瞬間は、本当にタカラモノ。
何度も見返して楽しんでいます。
はなれてみてわかること
今は地元の小学校へ通う毎日ですが、
北本から離れてみて、常々感じることがあります。
「やっぱり北本、いいな!」
現在は、ボランティアというかたちで北本とつながりをもたせていただいていますが、とにかくみなさん、軽やかで気持ちのよい人ばかり。
まちづくりに関わる方々も、なんだかゆるいなあと思いましたが、気負わずそこがまた良し。語弊があるといけないので書き加えますが、みなさん熱心にお仕事されています!
こんなにも楽しい土壌を作ってくださってありがとうございます。
私にとって、北本の原風景は、
木々の間をさわさわと吹き抜ける
みどりの風と、みかんいろの小道。
たくさんのどんぐりと、真っ赤なゆすらうめ。
ともするとポケットの中やかばんの奥底で枯れ果ててしまうような小さなカケラたちは、しっかりと、娘と私の心の栄養になっています。
「こどもたちは、環境を整えてあげれば、後は自分たちの力でやりとげるんですよ。」
園長先生の言葉は、北本の豊かな自然とつながっているなあ、そう感じました。
今日も北本では、ふっかふかの落ち葉のクッションを作って、みんなを待っていますよ。
*北本の自然を舞台に開催された「北本みどりの森めぐり」にて。
幼稚園の自然教育園も会場の一部として開放されていました。
レジャーシートやテントを広げて、北本の自然を満喫しながら、子どもとのんびり過ごせるイベントも積極的に行われています。
ーまだまだ、北本の楽しさを書ききれませんが、今日のところはひとまずここまで。