竹田農園 竹田孝徳 

『農家になる途中にて』

学校を卒業してから仕事をリタイアするまで、転職や起業を通して、いくつかの仕事を経験する人。職場が変わったり、退職したり、人それぞれのストーリーがあります。

総務省のまとめた 2019 年の記録では、転職する人は過去最多の 351 万人であったそうです。筆者の周りにいる 30 代から 40 代の友人に聞いてみると、転職を経験している人は、さほど珍しくなく、むしろ当たり前の感覚になりつつあると感じます。ですが、勤めを変える「転職」ではなく、仕事を創る「起業」を選択している人は、中々見当たりません。ましてや、それが農業を起業した人となれば。

今号で取材に伺った竹田孝徳さんは、農家として起業してから、5 年目の若手農家です。お宅も北本駅近くで、代々続く農家というわけではありません。秋の澄んだ青空が気持ちのいい 10 月中旬、荒川に架かる荒井橋近くにある畑で、話を聞きました。

 

カリフラワーを 1 万本つくる

「野菜作りは本当に楽しいですよ。これを将来仕事にできたらと、頑張って学んでいます。最初はスローライフに憧れて、農業の世界に入ってきたんですけどね」

白いタオルを肩にかけ、小麦色の肌でにこやかに笑います。現在栽培している野菜は、年間を通して 15 品目ほど。今一番力を入れているのはカリフラワーだそうです。

「この畑だけで、カリフラワーを 4 種類、約 1 万本作っています。8 月 1 週目に苗を植え、タンクで水を持ってきて水やりをして大きくし、10 月から霜が降りるまで収穫していきます。苗と水やりは、一番暑い時期に作業しますが、全然嫌じゃないですよ。畑で裸足になって作業しているんですが、それも心地いいんです」

定期的な草取りなども経て、カリフラワーは 11 月から最盛期を迎えます。収穫作業も一人で行い、全て手作業で行われます。

「苗を植えてから、一番大変なのは草とりです。収穫まで 2.3 回はやるのですが、カリフラワーの間に生えた草も、全て手で抜いていきます。これ以上畑を増やすなら、人を雇った方がいいですけど、まず自分が生活できるようにならないと。それからです。このカリフラワーが全部売れちゃえば、大丈夫だと思うんですけど(笑)。毎日ひいひい言いながらやっています。」

サラリーマン時代の葛藤

竹田さんは北本市出身の 38 歳。サラリーマンを経て、農業の専門学校で学び、農家として起業しました。農家を志すまでのストーリーを聞いてみました。

「前職はドラッグストアで店長をやっていました。お店では主に、メーカーから送られてきた商品を販売していたのですが、商品に自信をもって販売ができなかった経験がありました。またお客さんが本当に必要しているものを届けるのではなく、お店の売り上げ目標に合わせて、商品を売ることにも違和感を感じていました」

農家になるということ

北本市で農業を営む若手農家の多くは、家業として代々農業を営んできた人が多数です。竹田さんの様に、ゼロから農家として起業する人はほとんどいません。また、農業を志しても、その作業の大変さから、数年で辞めてしまう人も多いと聞きます。29 歳の時から農業の世界に入り、今でも続けている竹田さん。農業を仕事にしようと志したときの想いを聞きました。

「サラリーマンの時から、農業などの一次産業に興味はありました。仕事を辞めハローワークに通っているときに、農業学校のパンフレットが目に留まって、まずは 4か月のお試しコースに入学したんです。農業学校には、合計で 1 年 4 か月ほど通ったのですが、そこで自分たちの作った茄子が、今まで食べたことが無いほどおいしいかった。それで、やっぱり農業をやりたいなって改めて思いました。本当に忘れられない思い出です」

作るものに自信をもって、直接お客さんに届けられる

サラリーマン時代には味わえなかった農業の醍醐味に、やりがいを感じていると竹田さんは言います。「マニュアルもないし責任も自分にあるんですけど。それでもマイペースにやれるのが、一番気に入っています」

自分のペースで、楽しみながら、自分が恥ずかしくない野菜をつくる。竹田さんに話を聞いていると、農業という仕事が、明るく楽しい、未来のある仕事だと感じます。ゼロから農業を起業した、竹田さんのこれからに期待が膨らみます。

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