北本アグリ 鈴木祐樹
農業には夢がある
北本市の西側地域に広がるネギ畑。丸々と太ったネギが、一列に並んでいます。畑の多くは、北本アグリ株式会社が育てているネギ畑。その面積は、約 9 ヘクタール(サッカーコート 12 面以上)で、一日の収穫は約 4000 本から 5000 本にもなります。ネギの他にも、ハウスでトマト栽培も行っており、野菜の栽培から出荷までを、6名のスタッフで取り組んでいます。
北本アグリの設立は2015 年。「北本トマトカレー」などを提供する、市内飲食店の運営会社が、農産物の地産地消による地域活性化を目的として設立したのがその始まりです。使われていなかったハウスを借り、北本名産のトマト栽培からスタートしました。
サラリーマンを辞めて農業の世界へ
「ハウスは修理しないと使えなかったので、最初の 1 年はもう大工仕事ばかりでした。」北本アグリで、設立時から農園を切り盛りしてきた、社長の鈴木祐樹さん。北本市出身だが、北本アグリで社長となる前は、香川の農場で、野菜栽培と農業経営を 4 年間学んできました。
「28 歳で会社を辞めて、たまたま求人サイトで見つけた香川の農場に、試しに行ってみたんです。そこは、レタスを全国へ出荷している大産地でした」最初は、気軽な気持ちで農業の世界に入っていったという鈴木さん。そこで、農業の厳しさと魅力に気付いたと言います。
「農業ってのんびり働けるかなって思っていました。そしたら、とんでもない。仕事は秒単位の細かさが求められ、きついこともたくさんある。でも、野菜作りが楽しかった。そこには全国から、家が農家じゃない若手がたくさん集まってきていて、そんな仲間と切磋琢磨できるのも、やりがいを感じていました」
出会いが変えた 農業の持つ力
香川で農業技術を学ぶ傍ら、その産地をまとめているリーダーとの出会いが、鈴木さんの農業に対する見方を変えます。「その人は、独立した若手全員を、弟子の様に面倒を見てくれるような人。技術面でも色々と教えてもらいましたが、感銘を受けたのは野菜作りに対する姿勢や考え方です」
鈴木さんは、その時の学びを土台にして、農業に取り組んでいると言います。「農業はただ野菜を作るだけじゃない。地域密着で地域へ貢献ができるということを、その人は実践していました」具体的には、野菜作りを通して若者が働ける場を作ることができる。いいものをしっかり作れば、農家だけじゃなく、流通や小売りも皆が潤う。香川の 4 年間では、そのような農業のもつ力を目の当たりにしました。
「農業ってすごいぞと、素直に思いました」当時を振り返ります。
農業はきつい仕事?
農業の魅力に魅せられた一方、同時に厳しい現実にも直面しました。
「農場に研修生が来た時に、楽しいですか?って聞かれたんです。その時は時給で働いていて、確か 750 円でした。朝から晩まで働いて、仕事は楽しくても、給料はサラリーマン時代の半分にもいかなかった。働いた農場は家族経営的なところで、社員で働くとかもないし、こんなに泥だらけで一日働いて、職業的にはフリーター。その若い子には、「きついしやりたくないな」って思われているなと、感じてしまいました」
農業が好きだからこそ、そんな現状をどうにかして変えられないだろうか。むしろ変えていくことが自分のやりたいことの一つだと、次第に強く思うようになっていったそうです。
若手農家の受け皿をつくること
香川で農業の研鑽を積んだのち、鈴木さんは生まれ育った北本へ帰ってきました。縁あって、北本アグリの立ち上げに参画。現在は社長として日々奮闘していますが、香川時代に抱いていた思いが、今の経営方針にもつながっていると言います。
「農業って実家が農家じゃないと、将来の道が中々見えてこないんです。独立はハードルが高く、かといって会社的に勤められるところも見当たらない。会社務めと変わらないような安定や、働き方がしたいのに、受け皿がないのです。自分は、若い子たちが安定して働ける農業法人を目指しています」
そのため、設立当初から積極的に若いスタッフを雇用し、安定経営の収益基盤を作るため、ハウスに加え拡大しやすい露地(ろじ)栽培で農場を広げてきました。就業時間も 7 時から 17 時内の 8 時間勤務で、普通の会社と変わらない勤務時間を目指しているそうです。
ブランドネギには負けない品質を
北本アグリのネギは、地場スーパーだけでなく、ブランドネギである「深谷ネギ」なども扱う、深谷花園の集荷場や問屋にも卸しています。
「地名では深谷ネギに勝てないので、品質にはこだわります。太さとかサイズもそうですが、栽培方法でも、マメに草取りと土寄せをしています。おかげさまで、最近では個別に注文をもらえたり、指名買いも増えてきました。真夏でも月に 3 回は畑に入って、ネギの間に生えている草取りをするので、結構きついです(笑)」
ネギは畑に苗を植えて、収穫できるのは約 6 カ月後と、長い期間を畑で過ごします。その間も、日々の細かな管理は欠かせないそうです。
農業のバトンをつなぐ
サラリーマンを辞めてから、10 年近く農業を続けてこられたのも、思えばいい人に恵まれてきたからだと、鈴木さんはにこやかに話します。
「色々な人からもらったバトンを、次世代につないでいくために、農業をやりたいと思う若い人をもっと増やしたい。そのフィールドを作るのが、夢の一つです」
2022 年度には、新たに数名のスタッフを迎え入れる予定だそうです。鈴木さんの挑戦は始まったばかりです。