市民ライター 秋葉恵実
「キラキラ」も「映え」もない日常に、もやもやした想いを抱えるアナタへ。
市内に点在する雑木林やシャッターの続く商店街。
住宅の隣に広がる畑に、ぽつんと置かれた無人直売所。
北本市で見かける風景は、一見すると「キラキラ」「映え」とはちょっと離れたもののように思えるかもしれません。華やかな都会や絶景のある地方の人に、「北本って何があるの?」と聞かれると、ちょっと言葉に詰まってしまう気がします。
しかし、そんな北本も、かけがえのない場所が、人が、風景が、確かにある。
そう思った瞬間の一つが、この写真に出会った時でした。
南小近くの雑木林で遊ぶ、二人の女の子を写したこの一枚。柔らかな光と優しい緑からは、春の空気を感じさせます。女の子の表情はうかがい知れないのに、その後ろ姿からは、ごく自然に、この場所で過ごす時間を楽しんでいるのが伝わってくるようです。
この写真を撮影したのはナガシマアサコさん。北本市で”かしこまらない”写真スタジオ「うえのへや写真館」を営んでいます。日常の延長線にあるような写真館を作るアサコさんに、ありふれた日常の、かけがえのない「今」を記録することの大切さを聞きました。
見てもらうためではなく、自分のために”面白愛しいもの”を撮り続けていた
「写真を撮るようになったきっかけは、中学生の時にお年玉でポラロイドカメラを買ったこと。そのころから、クラスメートのちょっとボケっとした顔とか、”面白い”ものを撮るのが好きで。携帯電話やトイカメラも使いながら、風景や彼氏、友だち、猫なんかを撮り続けていました」
子どもが生まれると、自然と被写体のメインはわが子に。子どものつむじや、お風呂から上がったばかりのホクホクした顔など、”面白愛しい”と感じる瞬間を写真に残すようになりました。
「人に見せるとかじゃなく、自分の生活の記録を残している感覚ですね。そういう写真って、後で見返すとすごく泣けるものになるんですよ」
一度過ぎた瞬間は二度とは戻ってこない。だからこそ、かけがえのない「今」を記録したい――アサコさんのそんな想いは、やがて多くの共感を呼ぶようになりました。
「もともと写真の仕事をしていたわけではないんですけど、『うちの家族も撮ってほしい』と頼まれることが増えてきて。それなら仕事にしようと家族写真の撮影を始めたんです」
その人らしさを追求する、日常の延長にあるような写真を撮りたい
「100%可愛く撮る自信があります(笑)」と話すアサコさんは、撮影中は被写体の人に”ぞっこん”状態なのだそう。
「大人でも、子どもでも、その人にしかないチャームポイントって必ずあるじゃないですか。それって、必ずしもカメラに向かってにっこり、じゃなくて。シャイな子が恥ずかしがっている様子とか、時にはしかめっ面もかわいいポイントだったりしますよね」
その人らしさを追求する、日常の延長にあるような写真館を作りたい――そうして始めたのが、「うえのへや写真館」でした。
シェアキッチン「ケルン」2階にある「うえのへや写真館」は、シンプルな白バックの写真スタジオ。こちらで撮影されるのは、子どもたちがのびのびと好きなポーズを取ったり、親子でリラックスしておしゃべりしていたりする写真。
自分のお気に入りのおもちゃに囲まれて満面の笑顔の子や、兄弟でカメラに向かって変顔している子たちの写真からは、普段の家族と過ごしている様子も垣間見える気がします。
「個人的には、その人の一番自然な姿を撮影できるのは、一緒に生活している家族だと思っています。カメラマンが撮影する1番のメリットは、家族のだれもカメラを持たなくて済むこと」
写真を仕事にしている自分が言うのはなんだけど、と前置きしながらアサコさんはこう話してくださいました。
部屋が散らかってても、髪がぼさぼさでも良い。
後で見返したときに、自分が何かを感じるものを撮ってみてほしい。
アサコさんが写真で大事にしたいのは、「人が見てどう思うか」よりも、「自分が見返したときに、どう感じるか」。それには、良いカメラも、撮影技術も、関係ないのです。
「例えば、自分がその時に気に入っていた服を写真に残しておくと、後で見たときに『あ、これすっごい気に入ってたな』とか、その肌ざわりまで思い出すんですよね」
言われてみると、確かにそういう写真に覚えがある気がします。決して”上手い”写真ではなくても、自分にとって大切な記憶の一部になっている写真が。
「キラキラした見栄えのいい写真も素敵ですが、自分が生活の中で愛しく思う瞬間や大事に思うものを撮ってみてほしい。部屋が散らかってても、髪がぼさぼさでも良いんです。そういう写真は、後で見返したときにきっと感情が動くものがあると思います」
――“私”が見返したときに、”私”の心が動く写真。
例えばそれは、ボランティアで小学校の美化活動をしているおじいさんが、子どもたちからもらった感謝の手紙を読んで目を細める姿。
市役所のマーケットで、楽しそうにマシュマロを焼くご夫婦。
冬の田んぼで、寒さも忘れて地元愛について話す人たち。
「キラキラ」でも「映え」でもないけれど、シャッターを押したくなる瞬間は、このまちにたくさんあるんだ。
そう思えると、明日からがちょっと楽しみになる。
そんな元気を、アサコさんからもらうことができました。
※写真の一部はナガシマアサコさんInstagramより転載
ナガシマ アサコ
Instagram @asacamera
https://www.instagram.com/asacamera/?hl=ja
うえのへや写真館(完全予約制)
北本市中央1-109-105 ケルン2階
Instagram @uenoheya
https://www.instagram.com/uenoheya