市民ライター 酒井めぐみ

《移住の先輩に聞く》 きたもと暮らし、どう楽しんでいますか?

「名前も知らなかった」――。
そんなまちだった埼玉県北本市に移住して、1年が過ぎようとしています。
暮らしのそばにあったのは、豊かな緑、きれいな夕日、美味しい野菜・果物農園。
日常の折々、そうした好きなものに出会うたび、ここへ来てよかったと感じます。
けれども幼い子どもと過ごす日々は、遊びやお世話で日が暮れて。
北本にはまだ、知らない場所、知らないものばかりです。
もっと知りたいのに、知れない…歯痒さのある1年でもありました。

そんな、”きたもと暮らしビギナー”が、もっとこのまちを知るために、市民ライターにチャレンジします。

執筆初回となる本稿、取材をさせていただいたのは、西村かずたかさん。
「よく知らないまちだったし…元々は都心に近付こうと思っていた」
6年前に、市内へ移った西村さんは、そう笑いました。

しかし。

「これがもう、むちゃくちゃ美味しかった!」
「こういう環境って、最高だなって」

移住の先輩から、きたもと暮らしの楽しみを、伺いました。

都心通いのサラリーマンが きたもとの魅力に出会うまで

西村さんは、山口県出身の67歳です。北本市近隣から、東京都港区へ通勤していました。還暦を機に、自然素材の家を造りたいと土地を探し、北本へ。数ある候補を抑え、新居建設地が北本に決まった理由。それは、家庭菜園が叶うのに駅から近い土地だったこと、東京へ電車で1時間程度という十分な利便性だったこと、治安の良さ、など、諸々の条件に合致したから。移住後も、しばらくは在勤中でした。
「踏み込んだ魅力は、まだ、わかっていなかった」

ところが、新型コロナウイルスの発生により、生活が一変します。

定年を迎え、勤務地近隣でNPO職員へ転身した矢先に、緊急事態宣言が発出。そこで初めて、北本を歩き廻る時間が出来ました。
そして、北本市観光協会に立ち寄ります。
観光協会は、市のシティプロモーション活動と連動し、市民に対し地域の魅力を発信していました。職員と市内を巡る中、その説明のひとつにあったのが、『荒川わらの会』 です。

感動!暮らしを彩る『荒川わらの会』

『荒川わらの会』(以降、『わらの会』 )は、北本市内でも里山の風情が残る高尾橋周辺にて活動している、市民団体です。不耕作田畑を借り受け、農薬や除草剤を使わずに、米・野菜作りをしています。
観光協会で『わらの会』の話を聞いた後、高尾地区を散歩すると、たまたま『わらの会』の会員と立ち話ができました。

「毎週木曜日の昼ごろ、野良飯(のらめし)を食べてるよって聞いて。一度話せば友人って思ってるから(笑)、さっそく次の木曜の昼どきを狙って、ここを歩こうと思った」

そうして食べた、野良飯。

「自然の中で、人参やら里芋やら…無農薬で育てた素材を使って、熟練の女性が工夫して…。その野良飯が、本当に美味しいんですよ」

野良飯をきっかけに、『わらの会』に入会した西村さんが、初めて迎えた田植え作業の日。田植えだけでなく、桑の実の収穫が待っていました。

「ブルーシートを拡げて、こどもたちと、ばらばらーっと、たたき落として。房を切って、煮てね。
そのジャムが、もう、むちゃくちゃ美味しかった!そんなの生まれて初めて食べた。感動ですよ!」
(詳しい様子はこちらのイベントレポートから)

湧水を用いた、米作り。収穫、脱穀。天日干しした稲で稲藁を編みしめ縄作り。余ったものは燃やして、堆肥に。畑では大豆作りも行い、獲れた大豆と米の麹を使って、味噌作り。

田舎育ちと言う西村さんですが、どれも初めての経験でした。

「自分達で育てた大豆と、育てた米の米麹。それをね、この自然の中で、大きな釜で、煮て。煮立てた大豆を、味噌になる前に食べたら、それがまた、むちゃくちゃ美味しいんですよ。味噌になる前でも、そのまま大豆だけで、美味しいわけですよ」

身振り手振りで、目を細めて教えてくれる、西村さん。
聞いているだけで、よだれが滴ります…。

《味噌作りの様子(西村さんご提供)》

西村さんは続けます。

「都心ど真ん中の生活を否定するつもりはないよ。だけどこんな、だだっ広いところで、薪を組んで、煮炊きして。どう考えても、都心じゃ、いくらお金を払っても、できないことだと思うよ。それを思えば、こういう環境、身近でやれるっていうのは、最高の贅沢だなって」

「人の繋がり」と「まちへの想い」で きたもと暮らしの楽しみが拡がる

まさに、都心ど真ん中で勤務を続けてきた西村さんが語る、その魅力。
かつて、やはり都心で働き、家には寝に帰るような日々を送っていた私。西村さんの笑顔が、強く印象に残りました。

『わらの会』以外にも、北本のお気に入りが数々ある、西村さん。
多彩な地域の良さを知ってもらいたいと、『マーケットの学校』にも参加中です。地域の人たちが、より一層、一緒に楽しめるようと、取り組んでいます。

「ずっと住んでいる人は、当たり前と思っているから気づけない。そんな人たちにも、地元の良さを理解してもらいたい。まちに愛着を、もっともっと、持ってもらいたい」

そして、続けます。

「若い世代も一緒になって、楽しいことをいっぱいやってね。5,6人とか、顔が見える規模でいい。その小さな輪を繋げていけば、大きなエネルギーになるから。そうやっていけば、もっと魅力的なまちになるんじゃないかな」


《&green marketの様子》

西村さんの、きたもと暮らしの楽しみ方。
それは、まちの環境を活かしたもの、そして、ご自身だけが楽しむのではないものでした。
そそられた野良飯のお話も、素材とロケーションだけが、美味しさの秘密ではなくて。
『わらの会』の皆さんで、わいわいと楽しみ、分かち合っている情景があるということ。
だからこそ、その美味しさが、いかに格別かと思わざるをえません。
身体と心が満たされる、こんな楽しみ方、素敵だなぁ…!

『わらの会』は、会員による毎週の活動のほか、季節に応じた一般向けイベント(『田んぼの学校』)も開いているそうです。

生唾ものの野良飯が気になったそこのあなた。一緒にきたもと暮らしの一端を体験し、味わいに行きませんか?

荒川わらの会Facebookはこちら

※『わらの会』での煮炊きは、新型コロナウイルスの感染対策を行い実施していますが、状況に応じて休止しています。※写真の一部は『荒川わらの会』Facebookより転載