障がいのある人たちの居場所を

埼玉県北本市の石戸地区に「多機能型事業所 くじら雲」はあります。「くじら雲」は、障害のある人が日中過ごして働く場所として、2018年に開所しました。現在では毎日約20名の方が施設に通い、施設内外で清掃や内職などを手掛けています。作業場所の裏には、畑やみどりが広がっており、静かで落ち着いた景色が広がっています。

「内職が得意な人だったり、外作業が得意な人だったり。決まった仕事でも、黙々と取り組む人や、外で農作業や草取りをする人など、それぞれの人に合った仕事を、仕事の希望を出してもらって、組み立てています

施設の説明をして下さるのは「くじら雲」所長の鹿谷さん。障がいのある人たちの居場所と働くところをつくるために、親御さんと一緒に施設の立ち上げから事業を進められてきた、くじら雲のお父さん的な存在です。

200坪の畑から

200坪ほどの畑をお借りして、様々なお野菜をつくっています。お昼の賄いで使ったり、金曜日に市役所のひだまりショップに出したりしています

取材に伺ったのは9月の下旬。まだ夏を感じさせる日差しの中、気持ちの良い木陰でスタッフの皆さんが「ササゲ」の豆を鞘から外しています。

くじら雲ではこちらの畑を舞台に、今年から新たな事業に取り組んでいます。それが「菊の鉢花」レンタルサービスです。

近くに天沼さんという方がいらっしゃって、今でも菊を何十鉢も育てている方なんですね。それで、せっかく菊名人が地元にいるんだからって知り合いの方から紹介してもらって、やってみたらどうだっていうのがきっかけです。」

こう話すのは、農業担当の小川さん。菊のお世話だけでなく、畑の管理全般を手掛けています。

「今は少なくなってきていますが、昔はこの近くにも、菊を育てるたくさんの農家さんがあったと聞いています。菊は最初に苗からやっています。そんな大きい鉢では無く、土づくりからはじめました。土に色々なものを混ぜて、発酵させて、2月から育てています。メンバーさんとは、土の切り返しや空気を入れる作業、名札を書いてもらう、プラポットに入れ替えるとか、一緒にやっています。」

鉢は素焼きじゃないと

菊の栽培は、ほぼ初めて手掛けられたという小川さん。菊名人の天沼さんに教えてもらいながら、2月から夏の時期にかけて、メンバーさんと一緒に世話を欠かさずに行ってきました。栽培のこだわりも教えてもらいました。

「素人なんですが、こだわりと言えば、天沼さんに教えてもらっていて、この素焼きの鉢もこだわりなんです。天沼さんに聞いたら、鉢は素焼きじゃなくちゃダメだと。呼吸をしているんだからって。そういうところで、葉の色味の濃さや見栄えが変わってくるんですね。でも素焼きの鉢って結構高いんですよ。その話をしているときに、パリーンパリーンとお隣さんから音が聞こえてきたんです。行ってみたら、お隣さんが素焼きの鉢を丁度割っていました。お隣は昔は花農家さんで百合とかを育てていたそうなんです。よかったら頂けないかという事で、もらってきたんです。おすそ分けというか、この辺りは昔から花農家さんが多いんですよね。」

菊を通して地域と歩む

最後に「菊鉢花のレンタル」というユニークな事業にかける想いをお聞きしました。

「市の菊祭りに出ている菊なんかをみちゃうと、見劣りはしちゃうんですが、メンバー皆で手をかけているところに価値があると感じています。こういった福祉事業所で、地域の伝統的なものに関われるという事が嬉しいんです。あと、配達と回収はメンバーと一緒にやらせてもらうんですが、そのいったりきたりがコミュニケーション。会話が生まれたり、施設やメンバーのことを知ってもらうきっかけになったらと思っています。」

畑の一角で大切に育てられる菊の花。花を愛でるだけでなく、育てた人たちと会話を交わしその苦労を労う。その花には、そこに通う子供たちへの想いが詰まっていました。見た目だけでなく、心が温かくなる菊の鉢花。私もひとつお願いしたいと思います。(暮らしの編集室)

※菊の鉢花は予定数に達した為、今期のレンタルは終了しました。また来年お楽しみに。(2022年10月28日)

※レンタルについてはチラシをご覧ください。
※先着順となりますので、予定数量が終了している場合がございます。またレンタル可能な地域についてはお問合せ下さい。