きたもとスコープ

スコープ SCOPE。光学機器の名称。望遠鏡(テレスコープ)顕微鏡(マイクロスコープ)潜望鏡(ペリスコープ)銃の光学照準器などがある 。きたもとスコープでは「きたもとまちびらきプロジェクト」に参加する人々へのインタビューを連載します。同じ北本に集っていても、人が違えばみえている景色も違うはず。インタビューを通してその人の視点からきたもとの暮らしをのぞき見る。そんな連載です。

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こちらの記事は『きたもとスコープ 平本さんの話 前編』からの続きです。後編では探検部の活動のことや、北本へ感じていることなど。「平本さんの話」は続きます。

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―地元に目を向ける若者って、実感としてあまりいないような気がしてるんですが、どうなんでしょう。

平本:自分の中ではコロナ禍が大きかったですね。なんで北本の地形のこととか成り立ちのこととか勉強しようと思ったかっていうと、大学の課題で本来は観光地の地理を調べるはずのものが、コロナ禍で遠出できないから地元を調べてくださいって言われたからなんですよね。そこから北本のことを勉強して、初めて谷津っていう地形があるっていうのを知ったりとか、キツネとかノウサギとかがいるっていうのを知ってトレイルカメラを仕掛けはじめたっていうのがあって 。それはでも自分だけじゃなくて結構大学の探検界隈でも、みんな国内に目が向く良い機会になったよねみたいな話をしています。自分も、コロナ禍があったからポジティブな意味で、地元に目が向いたというか。

―トレイルカメラについて詳しくお話してもらえますか?

平本:まずは北本の資料を見て、ここにキツネがいるんじゃないかっていう記述を知ったんです。でもほ乳類って実物を見ることがすごく難しくて。虫は人が近づいても逃げたりしないけど、哺乳類はやっぱすぐ逃げちゃうし、夜行性のものが多いから、実際に見ることはできなくて。なのでその動物の糞とか足跡とか角を擦ったあとだとか、そういうのを見て追跡していきます。それをアニマルトラッキングって言うんですけど、まずそれを勉強するようになりました。動物も適当に縦横無尽に山を歩いてるわけじゃなくて決まった道を使っているので、市内の谷津に行って獣道のマップをつくることからはじめました。マップのなかの特に太い交差点は、人も同じですけど動物も一番通る場所なので、高確率で出没する。そこにトレイルカメラという、センサーで自動撮影する機械を1台、1年間くらい仕掛けています。2台目はわりと最近、今年の夏前ぐらいに付けました。1台目のカメラの下に谷津の谷底を流れる水路があるんですけど、その水路のほうにつけてます。イタチを撮りたいなと思って。イタチは今のところ映ってはないですけど。これトレイルカメラで撮れた写真です。結構多いんでパラパラ見てください。

―ありがとうございます。これはうさぎ?

平本:それは1台目のアングルですね。その水路のとこにちょうどシュロの木が倒れてて橋みたいになってたんで、ここ絶対動物通るじゃんと思って、カメラ構図が結構いい感じだったから、これ撮れたら面白いなと思ってつけたんです。

―ほんとだ渡ってる。結構頻繁に通るもんなんですね。

平本:そうですね。一番よく映るのはアライグマです。アライグマの4兄弟がいて、母親が連れてるんですけど、もうそれがもうずっと映ってて。1匹も欠けずにみんなちゃんと生きてて。この前車で駅前からずっとのびてる通りを走ってたら、そいつらに実物に会っちゃって。

―いつも写真で見てる人だ、みたいな。

平本:そうそうそう。キツネも多分いつものあいつだなっていうのに数回会えたんですけど、キツネは明確にテリトリー持ってると思うので、多分同じ個体でしょう。

―すごいですね、人じゃなくて動物でそれが起こるの。ものづくりにも興味があると最初仰っていましたが、どんなものを作っているんですか?

平本:アクセサリーに興味があって、大学入ってから2,3個つくりました。長野で黒曜石をとってきて、それを削ってピアスにしたりとか、鹿角や珊瑚を使ったり。あとは木製の表札を作ったりもしてて、探検部のものでは、先輩に書体を書いてもらって、自分はそれを彫って漆を塗ったりしてみたいなことをしました。

―誰かに作り方を教えてもらったりせずに、とりあえず独学でやってる感じですか?

平本:そうですね。あとこれはものづくりに入るのかな。このカラムシを取る作業とか、まああと土偶を焼いたりとか。

―土偶づくり面白そう。つくるきっかけってあったんですか?

平本:北本の地形とかを興味あって調べている時に、大事な要因となるのがやっぱ湧き水の存在であることを知ったんです。湧き水ってのは安定して一年中出る水だから、縄文人とか昔の人たちも使ってて、その周りに遺跡ができるんですけど。谷津も、大宮台地の崖線から湧き出た水の浸食によって、深い谷ができています。豊かな自然はこの地形が関係しているんです。そういうわけで湧き水に注目してて。北本の湧き水マップを昔の郷土資料から探したり、あと論文も読んだりしてました。文献をもとに湧き水を探し歩いていた時に、もう一面粘土。粘土っていうのは、常総粘土層っていう火山灰質の白っぽい土なんですけど、その粘土がもう全体に露出した真っ白な場所を見つけて。常総粘土層って特に水を通しにくい土で、結構の土木業界から嫌われてるらしいんですよ。地すべりを起こしやすいから。そういう粘土だから湧き水から流れ出た小川にも削られずそのまま残されていて。触ってみたらもうこれ粘土じゃんっていうのが分かるんですよ。もう明らかに粘土なので。じゃ焚火して焼こうかなと思って、去年の夏に探検部の友達が北本に来る機会があったので、その時に粘土を採ってきて焼いてみました。ちゃんとレンガ色に焼きあがって叩くとキンッと硬質な音になったので、感激したのを覚えています。

―このあいだ北本で出土した縄文時代の遺物をみせてもらったんですよ。これは8000年前の破片ですみたいな解説を聞きながら。でも平本さんがやってる土器づくりは、それと同じことが今もできるし、昔も同じことをやっていたみたいな、縄文時代と繋がる不思議な感覚になってます。

平本:縄文技術は特別な窯といった設備や技術、そういうのが要らなくて、本当にやりたければ手間がかかるかもしれないけど、できるっていうのが凄く好きです。縄文土器は高温は必要ないから焚き火に突っ込めばできるし、そこが好きですね。

―最後に一つ質問です。いろいろな人に話を聞いていると、やっぱり北本ってなんもないよねみたいな話をきくのですが、平本さんにとっては北本はどんなまちですか?

平本:何もないとは思わないですね。地方や特に埼玉でよく言われるこのフレーズは、あまりに浅はかな表現だと思います。自然観察公園があるのがまず結構すごいことだと思ってます。野鳥の図鑑とかをみてても、有名なスポットって言ったら、結構ここが出てくることもあるし。荒川東部としてはとても自然が豊かな、誇るべきところです。中高はやっぱ学校や部活があったりとかで全然地元に目が向いてなくて。今になって色んな自然もそうですし、色んな活動を知覚したっていう段階です。今の状態から10年経ったら、昔はこうだったけど今は…みたいにまちのことを語れるようになるかもしれませんね。