きたもとスコープ

スコープ SCOPE。光学機器の名称。望遠鏡(テレスコープ)顕微鏡(マイクロスコープ)潜望鏡(ペリスコープ)銃の光学照準器などがある 。きたもとスコープでは「きたもとまちびらきプロジェクト」に参加する人々へのインタビューを連載します。同じ北本に集っていても、人が違えばみえている景色も違うはず。インタビューを通してその人の視点からきたもとの暮らしをのぞき見る。そんな連載です。

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2022 年 12 月 10 日(日)
北本まちびらきプロジェクト、「自然と休日」グループでフィールドワークを行いました。その様子をレポートします。グループメンバーは北本の自然に関心を持っている人が多かったため、フィールドワーク実施場所には北本自然観察公園と緑のトラスト保全第 8 号地(高尾宮岡景観地)が選ばれました。

※本記事は#きたもとスコープ 自然と休日とフィールドワーク《北本自然観察公園編》からの続きとなります。

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11:00 トラスト地へ移動
フィールドワーク2か所目はトラスト地第8号地。トラスト地とは、特徴的な地形や景観、自然環境の保全のため、埼玉県が募った基金で保護管理されている土地のことを指す。北本にはその8 番目の指定保全地区があり、「緑のトラスト保全第8号地」と呼ばれている。トラスト第8号地は典型的な「谷津」の地形で両サイドに小高い丘、湿地の谷、湧き水が今でも残っている。昔はこの湿地を活かして稲作が行われていたそうだ。ここからは磯野さんの語りを挟みながら当日の様子をレポートしていく。

 

「台地を湧水が長い時間をかけて浸食していった谷を谷津と呼び、北本には谷津の地形が3つあります。一番北が北袋の谷津、真ん中が宮岡の谷津、一番大きいのが南側にある自然観察公園、僕なんかは八重塚の谷津って呼んでいます。北本の谷津の特徴は、標高が高くて谷幅が比較的狭いので起伏がより強調されて、独特な景観になっているところです。他の地域だと、谷のエリアに大きな車道が通っちゃっていて、谷津には必ず斜面林があるんだけど、斜面林から谷底に移行していく自然の景観が道路によって寸断されちゃっている。だけど、北本ではそういう道路が発達しなかったので、谷津の景観がよく残っています。それと谷頭部には今でもこんこんと湧き出す泉があるんですよ。

この宮岡の谷津にも湧き出す泉があって、以前測ったときは 1分間で55リットルぐらい出ていました。今日これから見に行きますけど、一番水質もよくて飲める水がある。そういう谷津が一時期埋め立てられちゃって、この宮岡の谷津も下流の半分は埋め立てられてしまったんですね 。その後、緑地化して野外活動センターを作ったんですけど、上流だけはうまく残 せて、平成17年に埼玉県のトラスト第8号地になったんですよね。

さっきの観察公園もそうなんですけど、自分の子供の頃までは、全部田んぼだったんですよ。谷津田が奥まで続いて、谷の奥には湧水があるじゃないですか。湧水を守るために必ず大きな林があるんです。でも田んぼって当然水平じゃなきゃいけないじゃないですか。だけど谷津田は結構高低差があ るんですよ。なので形が小さくて、いびつな畦がいっぱいできていて。それが棚田とは違った独特な風情を醸していて、よかったんですよね。観察公園も本当は田んぼを一部残しながら守ってくれたら良かったんですけど、もう遷移にまかせて柳林になってしまったり、池を造成したりして、全然谷津の景観が変わっちゃったんです。なのでここ宮岡は昔ながらの景観を残したい、ちゃんと田んぼを復元しましょうと言ったんですけど、叶いませんでした。できればこれか らでも田んぼを復元したいと思ってるんだけど。

この近くには高尾の河岸(かしという集落があったそうです。そこには昔、高尾河岸という大きな船着き場があったので、とても大きな集落だったんですよね。そこから見て南側なので、この 谷津のことを前谷津、訛って『 メーヤツ 』って呼んだりします。前谷津の中でも、本谷から右に曲がって伸びていく谷のことをトオカ谷津って呼びます。トオカは何かと言うと、どうやらオトカからきているらしいですね。オトカはキツネのことなので、昔はキツネがたくさんいたんでしょう。今でもキツネが出そうな雰囲気があります。それから、ここの目の前の林のことをサルヤマって呼ぶんですよ。猿の形に見えるらしいんですけど、どう見れば猿の形なのか‥。

水源の水が斜面林の下を流れているんですが、以前は村総出でこの水路をきれいにしていたので、冬になるとウナギが上がってきて、一番奥にある厳島神社の池にもウナギや ナマズがたくさんいたらしい んですよね。ということで少し歩いていきたいと思います」

湧き水から流れ出る小川やそこからひろがる湿地の上にはチップの敷かれた遊歩道が通っている。その道の終着点、湧水点の近くへ向かって歩く。

「この時期だから植物はあまりみれないですけど、水辺におりるとレッドデータブックに載る希少な水生植物がけっこう残っているんですよ。湧水のまわりには貴重な水生昆虫がいて、ここは平野部なのに、谷津特有の丘陵的な環境が影響して、本来は平野部にはいないトンボがいたりとか、珍しいオオイチモンジシマゲンゴロウっていうレッドデータブックに載ってるゲンゴロウがいたりします」

木道で整備された遊歩道からは湧水点は見えず、流れ出す水音を聞きながら次の場所へ移動することに。続いてはトラスト地の裏手側にある厳島神社へ向かう。道中、道から谷間の斜面林を見渡せる場所を通る。かなり見晴らしがよく、この日は天気も良かったので光に照らされた樹々が美しかった。きっと紅葉の季節だったらもっときれいな景色が広がっているのだろう。
そんな谷間の景色を磯野さんがこどもの頃に見た時の思い出を話してくださった。

「やはりここはいい景色ですね。おうたろう君ぐらいの時に、子供ながらにここへ来て『ああいいとこだな』と思ったことを覚えています。俺は東京で生まれ育っていたので 、ここへ来てびっくりしました。こんないいとこあるのかと思って、結構子供ながらに感激していました」

記事は《湧水と民話編》へと続きます。